落ち着こうにも落ち着けない
レイドたちが危険な依頼を受けて、
ここから出発して既に二日がたっていた
予定では帰ってくるのは明日のはずだが、
それでも不安である
うろうろ歩き回っているユリアを見つめるゼラウスの目にも不安が浮かんでいた
「彼らなら大丈夫だ、お前を助けてくれたんだろう?バケモノから」
「そうだけど・・・」
いや、「だからこそ」だ
自分の知り合いが命の危険にさらされていると思うと、
落ち着いてはいられない
友達というだけでも不安だが、命の恩人ともなればなおさらだ
それに、何かしらよからぬカンが働いていた
夜の荒野は月光のおかげでいくらか美しく見える
そんな薄暗い砂の地面を走っていく一台のリーバーがあった
ディンのリーバーはオープンタイプで、涼しい風が肌をなでてゆく
レイドも女性も疲れたせいか既に眠りに落ちている
・・・この女性、一体何者なんだ?
あの集団が待ち伏せしていることを想定して、直接戻らずに、
大きく迂回するルートを取っている
既にあたりは暗くなっているため、相手が暗視スコープでも使わない限り、こちらが有利だ
・・・恐らく使っているだろうが
突然起こったさまざまなことと、自分が眠気をほとんど覚えないことにため息をついた
ここ数日、奇妙な感覚にとらわれることがしばしばあり、
それからというもの、ほとんど眠らなくてもよくなった
果たして健康上「良い」といえるのかは別だが
額に冷たいものを感じた
気がつくと、パラパラと雨が降り始めている
レイドがうめき声をひとつして、ぼんやりと目を覚ました
屋根無しの乗り物の上で雨にさらされるのはいやだが、
この程度の雨ならむしろ心地よい
「降ってきちまったな」
運転を始めてから一度も話していなかったディンが口を開いた
レイドはこの心地よさよりも眠りのほうが優先らしく、
不満そうな表情を浮かべていた
「雨にぬれたくなかったらイスの下にでももぐってろ」
レイドは本当にそうしようとして体の向きを変えたところで動きを止めた
目を細めた瞬間、大きく見開いてゴウの頭を押さえ込んだ
何事か目で理解する前に、音が真実を教えてくれた
銃声・・・!?
「あいつら、俺らのことつけてやがった!」
「つかまれ!」
突然車体ががくんと揺れ動き、急カーブしていることが分かった
女性が飛び起き、レイドはそのゆれの中でバランスをとりながら後方に発砲している
新しいマガジンを取り出そうと腰を探った手つきが衝撃の事実を物語った
「弾がねえ!」
驚愕している暇も無く、後方から熱を持った銃弾が撃ち込まれる
このままでは全員が死ぬ・・・!
「伏せてろ!」
緊迫した叫び声と、ピンを抜く軽快なキンという音が耳に入った
すぐにレイドのしていることが分かり、女性と共に座席に体を押し付ける
数秒後にくぐもった爆発音が響き、車体が跳ね上がったように感じた
「きいてねえのかよ!」
どうやら相手は二台いるらしく、エンジン音が左右に遠ざかっていった
このタイミングで逃げたのか・・・?
レイドも同じことを不審に思っているようだったが、やがて声を張り上げた
「飛び降りるぞ!早く!」
一体何を言い出すんだ?
ディンは一足先に飛び降り、砂の上を転がっていた
運転手のいないリーバーは危険だ
よく分からないが自分も飛び降りることにした
なるべく力を受け流せるように受身の態勢をとったまま砂に飛び込む
肩から地面に当たり、しばらく慣性で転がった
レイドは女性と一緒に飛び降りたようだ
肩の痛みは無かったが、頭がくらくらする
多くのことを一度に処理できないせいもあるが、転がったことが一番大きい
制御を失ったりーバーはやがて横転し、動きを止めた
壊れてはいないが――――
突如暗闇が引き裂かれ、オレンジ色のまばゆい光と爆音があたりを包み込んだ
「やっぱりやりゃあがったな」
「どういうことだ?」
「あいつら、どさくさにまぎれて爆弾仕掛けやがった」
やはり相手はプロか
だがなぜそんな腕利きのやつらが俺たちの命を狙うんだろうか?
謎は深まるばかりである
「ん? 足音だ・・・」
それも数人
どうやらあの爆発だけでは飽きたりないらしい
だがどうする、レイドの武器はもう弾切れだぞ
「万事休す・・・・」
最初の銃弾が撃たれた
暗がりのせいか精度は悪いが、油断すれば当たる
とりあえずはこちらに引き寄せて非戦闘員の負傷を避けるしかないな
レイドは既に行動を開始していた
わざと大きな足音を立てながら離れた場所に走っていく
ゴウは別方向に走った
相手も二手に分かれて発砲してくる
砂で足をとられてうまく走れない、このままでは被弾するぞ・・・!
銃声が単発のものからフルオートのものに変わった
本気で殺しに来る・・・か
一発の被弾は覚悟したとき、銃声がひとつ止んだ
なんだ?
そしてもうひとつも止み、戦闘が終わった
一体何があった?
「早く! こちらへ!」
少年の声がした
ありがたい、味方か
声の主は十歳くらいの少年だった
片手にはアサルトライフルを抱えている
こんな子供が戦場に・・・
「この近くにぼくたちのキャンプがあります。そこまで来て下さい」
「危機一髪・・・だな」
まったくその通りだ
そしてこれから何回、その言葉を思い浮かべることになるのだろうか・・・
第二十二話へ続く・・・・・